2016年6月11日土曜日

ドラマ「ゆとりですがなにか」 第7、第8回 メモ

山路と大吾は対(つい)関係になっているようだ。大吾の学習障害は本人がどうすることも出来ないという違いがあるが、山路が童貞であることが職員室では日常会話になっていることから、まわりの人は苦笑しながらも受け入れていることが分かる。女性に関しては正反対とも言える麻生までも、まあそういうのもあるか、と認め始めているようだ。茜が大吾が自分の弱点をまわりに認めさせたことを対して「勇気がある」と賛辞をおくるが、これは間接的に山路に向けられたものとみていいのではないか。

このドラマが土台にしている「オズの魔法使い」では、山路は勇気のないライオンにあたる。女性との関係に深く踏み込めないという意味で、勇気がない、を表していたと思うが、童貞であるという弱点を(山路の意志ではなかったが)まわりに知らしめる勇気へと転換させたのだと思う。

「オズ」ではライオンは勇気を示して百獣の王として動物たちに迎えられる。ドラマでは小学生を動物、モンペを野獣のように見立てているのだろう(笑)。

大吾は山路と対関係で、間接的に山路の状態を表すとともに、ゆとり教育への言及の糸口としても使われている。クドカンは設定やキャラを一つの目的のために使うことは、まず無い。これらを上手く使い切るので、取って付けたような印象がなくなる。

早川が若者からボールを奪ってバスケをするが、すごく下手、というシーンがあった。これは早川というキャラはこんな奴、という紹介でもある。バスケの一件はそのまま茜をホテルに連れ込むことにつながっている。こんな状況はそんなに珍しくないのに、何故芸能人が不倫するとギャーギャー騒ぐのか、そんな資格があるのか?という皮肉も多分含まれている。上手いのは、茜が早川と寝ることで、正和と同時に退職する際の障害を取り除くことにもなっている点。二人とも寿退社(笑)だが、時期が悪い。茜は栄転、正和は営業に復帰したばかり。部下が辞めるということは管理職としての資質を問われ、マイナスの評価につながる訳だが、早川には二人に対して後ろめたさがあるので受け入れるしかない。不倫の証拠が向こうから消えてくれるようなものなので、ウェルカムな感じもあるだろう。

山岸(「オズ」では心のないブリキの木こり)は仕事が出来ないことを虚勢を張って誤魔化そうとしていたのだが、田之口の母親と正和に取り除いてもらって楽になったのか、鳥の民ではネギを片手に幸せそうだ。鴨がネギを背負って、とよく言うように、もう自分を好きに料理してくれ、という感じなのか。

道上まりぶは東大に入れる程の頭脳はない、という意味で「オズ」のかかしにあたる。西の魔女によって藁を抜き取られ、服を高い木の上に引っ掛けられて身動きできなくなる。後でこの服に藁を詰め直してもらうと生き返る、というざっくりした設定w 妻子は入管を避けて逃亡、まりぶは逮捕されて身動きできなくる。かかしはオズが去った後のエメラルドシティ(建物や服などすべてが緑色)を任される。植木屋は木や緑を連想させるに十分だ。今気になっているのは道上という苗字。まりぶは文字通り道の上で客引きをやっていたのだが、それは呪縛のようなものなのか、ということ。

正和の足の怪我は心の傷を分かり易く表すためのものだと思っていたが、それだけではなかったようだ。茜の父親の足が悪いのは意図的に正和との共通性を作っているように思える。単純に前進が不器用なことを表しているだけかもしれないが、これまで正和の父親への思いが不自然なくらい表に出て来ないので、最後の方に取ってあると想定し、とりあえずこの線で考えてみる。足が不自由という共通性でA=B、B=CならA=Cのような感じで、茜の父が正和の父親と似ていることを匂わせているのではないかと。だから正和は余計に茜の父に対して反発を感じたのだと。まりぶと父親である麻生との対峙が今後あるが、その時に正和が自分の父親に対して感じていた思いも絡めて来そうな気がしている。

正和は「オズ」のドロシーで、竜巻ではなく成績不振で鳥の民へ飛ばされた。ドロシーは銀の靴を3回鳴らして3歩でカンザスに戻るが、正和が田之口の母親(北の魔女)から渡されたのは「忍耐」という字が入ったキーホルダー。正和は色々なことに耐え抜いて戻ることに成功する。3歩で戻る様子は、鳥の民店長→営業→茜→坂間酒造、という3段階で表されている。ドラマの冒頭は正和が営業から飛ばされたところから始まるので、一見戻るべき場所は営業に見えるが、これはスカしみたいなもので、本当に戻るべき場所は坂間酒造ということだ。実家から会社に行ってた訳だけどw 「オズ」自体が無いと思っていたものは実は自分の中にある、戻る手段は最初から持っている、要は自分の足元を見ろ、という話だ。

「オズ」では南の魔女(象徴する色は赤)がドロシーにカンザスへの戻り方を教え、ライオン、かかし、ブリキのきこりを居るべき場所へ送る。服や持ち物が赤の女性がドラマでは南の魔女の役割、という演出のようだ。茜は名前自体が赤だが、自転車やバッグが赤だった。正和を本来の場所へ導く役割であり、山路の相談相手でもある。正和の妹のゆとりもまりぶと会ってる時は赤い服を着てたり、赤のバッグを持っていた。まりぶとは既に別れたが、彼の逮捕後もまだ関わるのかもしれない。佐倉も何度か赤いセーターを着ていた。彼女も山路が本来居るべき場所へ導く役割を担うと思われる。

クドカンはストーリーを作るのが苦手なのか興味がないのか分からないが、いつも人と人の関係性の変化を主軸にしてドラマを作っているように思える。もっとも、人と人の思いがぶつかり合う場がドラマ、と言える訳で、当然関係性も移り変わっていく。ただ、クドカンが書いた相転移とでも呼べそうな関係性の変化は、見ていて純粋に楽しい。

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