2018年1月18日木曜日

『anone』 第2話


本当に欲しいものを手に入れるのは難しい。今持っているものさえ簡単に失ってしまうことがある。絶望の中で何かを求めて彷徨っているような舵(阿部サダヲ)、るい子(小林聡美)、ハリカ(広瀬すず)、亜乃音(田中裕子)の4人が本格的に絡みはじめた第2話。今回も紙切れ(偽札、書類、メモ)のようなアイテムを使い、全体がきれいにまとめられていたと思う。

■ 求めるもの、の代わりに

るい子は舵の店ため、ハリカは彦星の治療費のためにお金を手に入れようとする。亜乃音がずっと求めていたのは失踪した娘、青島玲(江口のりこ)。全員求めていたものは得られなかった。しかし、代わりのものがやってくる。

ハリカは偽札をダシに亜乃音と交渉しようとするが、結局お金は手に入らない。その代わり、久しぶりに風呂と布団が与えられる。亜乃音の娘が失踪したのは19歳のときで、ハリカは19歳。彼女は入れ替わりのような存在だ。「愛想がない」と言われた亜乃音が少しづつハリカに心を開き、語っていく。ハリカは喋りはたどたどしい。そんな不器用な二人の心が徐々に共鳴していくようだ。ハリカがよく使う「あのね」は「亜乃音さん」に置き換わり、好きな時に話したいことを言える日が来るのだろうか?

るい子は完全にリーダーシップを握って舵を自分の行動(その動機は舵のためだが)に付き合わせる。自分という彷徨う舟を、舵を使ってどこかへ辿り着かせようとしているようにも見える。二人は亜乃音が裏金を持っていると思い込み、印刷工場に侵入するが目的のものは得られず、成り行き上ハリカをさらってしまう。


■ 紙切れで失うもの

花房法律事務所の場面で、息子が「なに勝手に依頼断ってるんだ」と言いながら書類を父親の顔に投げつける。法律事務所の契約も書類という紙で行われる。後につづく「紙切れ」で失うことのイントロダクションのようになっている。

前回は偽札のせいでハリカの友達関係(のようなもの)は壊れてしまった。今回偽札が印刷される過程が描かれた。偽物であれ、本物であれ、紙幣は所詮印刷物に過ぎないのだと確認していたような気がする。その紙切れに人は振り回される。

舵は西海(川瀬陽太)から渡された書類にサインして土地を引き渡そうとしていた。その場に居合わせたるい子は、西海が人のいい舵を騙してきたのだと見抜き(西海はシャケが熊を襲うとか、デタラメを平気で言う奴である)、書類を破り捨てて、舵を助ける。

玲と亜乃音は血がつながっていない。突然現れた実の母がメアドを書いた紙切れを渡した後、玲は失踪する。実の母親の許へ行ったのか、それとも本当の母親だと思っていた亜乃音が急にニセモノに見えて来て混乱したのだろうか?とにかく二人の親子関係は唐突に壊れてしまった。


■ 赤と青が揃えば一緒にいられる?

登場人物に色が固定されている訳ではなさそうだ。今回るい子は赤い手袋だったが、舵は青いセーターを着ていた。ラーメン屋の亜乃音とハリカは赤と青。チャットに使っているアプリの中で、ハリカと彦星は赤と青。亜乃音とすれ違った親子も赤と青。どうやら、赤と青だと一緒にいられるということのようだ。

前回出て来たツリーハウスは赤と青に塗り分けられていた。施設の壁にあった『忘れっぽい天使』を元にした絵は、背景が赤と青だった。まだ「共存」を意味している、とまでは言えないが、2つの色が揃うことが何かの合図になっているような気がする。

亜乃音は意を決して横浜にいる娘に会いに行ったが、無視されてしまう。この時玲は赤いユニフォームで子供は青いマフラーをしていたが、亜乃音は青いものを身につけていなかった。失踪してからだいぶ時間も経過し、玲自身も親になっているので、昔よりは亜乃音の気持ちが分っている筈。会いたくない、というより会わせる顔がない、ということなのかも知れない。会いたいのに会えない、という織姫と彦星の関係性がここにも見ることができる。

横浜から自宅に戻った亜乃音は工場が荒らされていることに気付く。事情を知らない亜乃音にすれば、ハリカが何かを盗んで逃げたと思うはず。それでも怒るというよりは、自分がそう言う目にあっても仕方がないと諦めているようにも見える。突然いなくなった、ということでは娘の失踪と重なる部分がある。15年前から天気予報の画面に娘の姿を探し続けてきた亜乃音。そして今日、娘と会えたものの取り戻すことは出来なかった。彼女はその出来なかったことを、19歳のハリカを通して実現しようとするのかも知れない。


■ 忘れっぽい天使

チャットで世の中のちょっと幸せになるものを出し合うハリカと彦星。施設にいた頃は、そんな他愛のないことさえ出来なかったのかもしれない。

前回、今回とハリカはスケボーを忘れそうになっている。彦星がチャットの終わり際にさりげなく言った「忘れ物に気をつけて」は昔のハリカのことをよく覚えているからなのか。それともチャットを通してハリカが忘れっぽいことを知ったのか。彦星にとってハリカは「忘れっぽい天使」のように見えているのかも知れない。

2018年1月13日土曜日

『anone』 第1話を読み解く

パウル・クレー『忘れっぽい天使』

脚本が坂元裕二で演出が水田伸生と知ったら、見ない訳にはいかない。ともすれば救いのない真っ暗闇になってしまいそうなところを、演出や詩的なセリフ、広瀬すずの存在でそこまで落ち込まないよう慎重にコントロールしている印象。感想を書き出すとキリがなさそうなので省略! 今後このドラマを観ていくにあたり、第1話で押さえておいた方が良さそうなところをまとめてみる。

■ 赤と青
 このドラマではメインとなる4人にイメージカラーみたいなものが与えられている。

赤:青羽るい子、持本舵
青:辻沢ハリカ、紙野彦星

 ちょっと面白いのは、子供時代のハリカが赤い服を着ていて、青羽るい子の名前に「青」が入っていること。何か含みがありそうな感じではある。

 この二組は相似形だ。余命半年と宣告された舵と、難病で死を覚悟している彦星。死に場所を探してると言いながらも居場所を求めて彷徨っているようなるい子、と、バイトは近くに「死」があり、家族も家もなくネカフェで暮らすハリカ。二組を対比させながら話が進むことになるのだろう。

■ 偽物と本物
 坂元脚本に限ったことではないが、複数のエピソードを並べ、それらの共通点や対比的な要素を見出してもらい、それによって何かを感じてもらう、という手法は珍しくない。今回は「偽物」と「本物」が多く出てくるので、それぞれ分けてみる。

偽物(作られたもの):
・ネットカフェの友情
・ハリカの偽の美しい記憶
・偽札

本物(現実):
・孤独死が残すもの
・お金への執着
・ハリカの本当の記憶

 ここでドラマを思い出すと、「偽物」は壊れて(壊されて、と言った方がいいかも)いくことに気付く。そして「本物」は醜い。今後は偽物でもいい、あるいはそれでも本物がいい、というような展開になることを予感させる。
 このドラマのキャッチコピーは「私を守ってくれたのは、ニセモノだけだった」。第1話の時点で既に「ニセモノ」に囲まれていて、それは壊れてしまったが、また別のニセモノが追加されそうだ。

■ 風車
 3枚羽の風車の映像が何度も出てくる。それはハリカの子供の頃の記憶とつながる目印であるし、林田亜乃音を中心に青羽るい子、持本舵、ハリカの3人がグルグル回るイメージを伝えているようでもある。第1話がすでに亜乃音が落とした偽札で3人が振り回される話ではあったが、今後4人が擬似家族を構成する話にもなりそうだ。

■ 織姫とスケボー、カノンと分身
 「映像による語り」で最も印象深かったのは、彦星のいる病院を見つけたハリカが川を挟んでチャットする場面。「川」は間違いなく「天の川」を意識している。説話では、織姫と彦星をつなぐ橋をかけるのはカササギ。このドラマではその代わりに、じっとして動かないハシビロコウを出すことで、二人の間にまだ橋がかからないことを伝えていた。ハリカはやはり織姫に見立てられているので、二人はなかなか会えそうもない。

 そもそも「何でハリカがスケボー?」と思っていたのだが、織姫であることを踏まえると、機織り機の部品を表現していたのかなと。縦糸の間をスーと通すやつ、って雑過ぎて分からないから写真を:



 正式には「杼」(ひ)と言うらしい。

 彦星がチャットで使った「カノン」という名前は「正典」という意味がある。映画では本編を「カノン」と呼ぶことがあり、そこで扱わなかったエピーソードで「スピンオフ」を作ったりする。『スターウォーズ』で言うと、エピソードI~VIIIがカノンで、『ローグ・ワン』がスピンオフだ。ということは、ハリカは彦星のスピンオフ的存在、つまり彼が見られない世界を体験する人ではないかと思えてくるが、そういうことだというヒントがドラマの中で提示されている。

 ハリカの外見には意味が込められている、と思う。彦星が子供のときに着ていた青いダウンジャケットと前髪のイメージをハリカは引き継いている。「ハリカ」という名前は、例えばファンタジーなら男でも女でも通用しそうだ。ベリーショートの髪型もあり、彼女は少年のように見える。そしてハリカを演じる広瀬すずは、声でも「男の子」を表現しているようにも感じられる。彦星がハリカに望んでいるのは「外の話を聞かせてほしい」で、実際にそうしている段階で、ハリカは彼の分身のような役割を負っていることになる。彦星になりかわり、今の彼が絶対に出来ない、外の世界を見ることをハリカがしている訳だ。

 ここで引っ掛かるのが、ハリカが彦星と施設を抜け出したときの記憶が無いこと。彦星のこと自体ほとんど憶えてないとすると、無意識に今のような格好をしているのだろうか?何度か出て来たクレーの『忘れっぽい天使』が示すように、ハリカは忘れっぽいだけなのか?それとも演出でその格好をさせているだけなのか?

 「記憶」の問題は厄介だ。施設にいた頃の辛い記憶を美しい記憶に書き換えてしまったのは分かる。しかし、彦星との記憶がないのは不自然で、ハリカが記憶の一部にフタをしてしまっている可能性もあるし、彦星が全くの嘘を言っている可能性すらある。この辺は次回以降を見ていかないと分からない。

 ハリカは織姫と彦星の分身的存在という2つの役割を担っていることになる。しかし、彼女が彦星という男子を演じでいるような状況では、織姫という女子の部分は抑えられてしまっているように思う。彼女が分身的役割を終えたとき、織姫として彦星に会える気がするのだが、これって...